応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について
Top 最終更新日 2020/07/06

 

■ 応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について


医政発1225第4号
令和元年12月25日
各都道府県知事 殿
厚生労働省医政局長

応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

 医師法(昭和 23 年法律第 201 号)第 19 条第1項においては、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」として、いわゆる医師の「応招義務」を定めている。この応招義務に関連して、「病院診療所の診療に関する件」(昭和 24 年9月 10 日付け医発第 752 号厚生省医務局長通知。以下「昭和 24 年通知」という。)等において、医師や医療機関(病院、診療所など)への診察治療の求めに対する対応に関する解釈を示してきたところである
 が、現代においては、医師法制定時から医療提供体制が大きく変化していることに加え、勤務医の過重労働が問題となる中で、医師法上の応招義務の法的性質等について、改めて整理する必要性があること、また、現代の医療は、個々の医師のみならず医療機関を含む地域の医療提供体制全体で提供されるものという前提に立つと、医師個人のみならず、医療機関としての対応も含めた整理の必要性があることが指摘されていた。
 このため、「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究(平成 30 年度厚生労働省行政推進調査事業費補助事業)」(研究代表者:岩田太上智大学法学部教授)において、医療提供体制の変化や 医師の働き方改革といった観点も踏まえつつ、医師法上の応招義務の法的性質をはじめ、医師や医療機関への診療の求めに対する適切な対応の在り方について検討を行い、このほど別添のとおり報告書をとりまとめた。

今般、当該報告書の内容を踏まえ、医師法第19条第1項及び歯科医師法(昭和23年法律第202号)第19条第1項の法的性質を明確にするとともに、どのような場合に診療の求めに応じないことが正当化されるか否かについて、下記のとおり整理したので、貴職におかれては、これを御了知の上、貴管下保健所設置市(特別区を含む。)、関係機関の長、関係団体等に対する周知徹底をお願いする。

なお、過去に発出された応招義務に係る通知等において示された行政解釈と本通知の関係については、医療を取り巻く状況の変化等を踏まえて、診療の求めに対する医療機関・医師・歯科医師の適切な対応の在り方をあらためて整理するという本通知の趣旨に鑑み、今後は、基本的に本通知が妥当するものとする。



1 基本的考え方

(1)診療の求めに対する医師個人の義務(応招義務)と医療機関の責務

 医師法第19条第1項及び歯科医師法第19条第1項に規定する応招義務は、医師又は歯科医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師又は歯科医師の患者に対する私法上の義務ではないこと。
 応招義務は、医師法第19条第1項及び歯科医師法第19条第1項において、医師又は歯科医師が個人として負担する義務として規定されていること(医師又は歯科医師が勤務医として医療機関に勤務する場合でも、応招義務を負うのは、個人としての医師又は歯科医師であること)。
 他方、組織として医療機関が医師・歯科医師を雇用し患者からの診療の求めに対応する場合については、昭和24年通知にあるように、医師又は歯科医師個人の応招義務とは別に、医療機関としても、患者からの診療の求めに応じて、必要にして十分な治療を与えることが求められ、正当な理由なく診療を拒んではならないこと。

(2)労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等について

労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等については、使用者と勤務医の労働関係法令上の問題であり、医師法第19条第1項及び歯科医師法第19条第1項に規定する応招義務の問題ではないこと。(勤務医が、医療機関の使用者から労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等を受けた場合に、結果として労働基準法等に違反することとなることを理由に医療機関に対して診療等の労務提供を拒否したとしても、医師法第19条第1項及び歯科医師法第19条第1項に規定する応招義務違反にはあたらない。)

(3)診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方

 医療機関の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)であること。
 このほか、医療機関相互の機能分化・連携や医療の高度化・専門化等による医療提供体制の変化や勤務医の勤務環境への配慮の観点から、次に掲げる事項も重要な考慮要素であること。

・ 診療を求められたのが、診療時間(医療機関として診療を提供することが予定されている時)
・勤務時間(医師・歯科医師が医療機関において勤務医として診療を提供することが予定されている時間)内であるか、それとも診療時間外・勤務時間外であるか
・ 患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係

2 患者を診療しないことが正当化される事例の整理

(1)緊急対応が必要な場合と緊急対応が不要な場合の整理

1(3)の考え方を踏まえ、医療機関の対応として患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応として患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、緊急対応が必要な場合(病状の深刻な救急患者等)と緊急対応が不要な場合(病状の安定している患者等)に区分した上で整理すると、次のとおりであること。

緊急対応が必要な場合(病状の深刻な救急患者等)

ア 診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合
医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される。

イ 診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合
応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない(※)。
※ 必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い。(例えば、心肺蘇生法等の応急処置の実施等)
※ 診療所等の医療機関へ直接患者が来院した場合、必要な処置を行った上で、救急対応の可能な病院等の医療機関に対応を依頼するのが望ましい。

緊急対応が不要な場合(病状の安定している患者等)

ア 診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合
原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も考慮して緩やかに解釈される。

イ 診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合
即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。ただし、時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが望ましい。

(2)個別事例ごとの整理

1(3)の考え方を踏まえ、医療機関の対応として患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応として患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、具体的な事例を念頭に整理すると、次のとおりであること。なお、次に掲げる場合であっても、緊急対応が必要な場合については、2(1),寮依により、緊急対応が不要かつ診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合については、2(1)▲い寮依による。

患者の迷惑行為
診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。
※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。

医療費不払い
以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。具体的には、保険未加入等医療費の支払い能力が不確定であることのみをもって診療しないことは正当化されないが、医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないこと等は正当化される。また、特段の理由なく保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には、悪意のある未払いであることが推定される場合もある。

入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等
医学的に入院の継続が必要ない場合には、通院治療等で対応すれば足りるため、退院させることは正当化される。医療機関相互の機能分化・連携を踏まえ、地域全体で患者ごとに適正な医療を提供する観点から、病状に応じて大学病院等の高度な医療機関から地域の医療機関を紹介、転院を依頼・実施すること等も原則として正当化される。

差別的な取扱い
患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教等のみを理由に診療しないことは正当化されない。ただし、言語が通じない、宗教上の理由等により結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。
このほか、特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。

訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応
外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則である。外国人患者については、文化の違い(宗教的な問題で肌を見せられない等)、言語の違い(意思疎通の問題)、(特に外国人観光客について)本国に帰国することで医療を受けることが可能であること等、日本人患者とは異なる点があるが、これらの点のみをもって診療しないことは正当化されない。ただし、文化や言語の違い等により、結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。

 

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